アメリカで活動するギタリスト/プロデューサー /シンガー・ソングライターのジェイソン・ラピエールが配信限定で発表した楽曲を特別に集め、クワイエット・コーナーが監修を手掛けた『Jason LaPierre for Quiet Corner』がリリースされました。今回、ライナーノーツを書くにあたり、ジェイソンにいくつか質問を投げかけたところ、非常に興味深い答えが返ってきましたので、今回、ここに掲載することにしました。
―出身はアメリカのどちらですか?
(ジェイソン・ラピエール)アメリカのコネチカット州ニューブリテンで生まれたんだ。文化の多様性があって、都会と郊外が混在している感じの、やや小さな町だよ。
―音楽を始めるようになったきっかけは?
幼い頃から音に対する憧れがあったんだ。私は人一倍聴覚が過敏で、どんな些細な音でもとても深く感じるので、私が音楽を選んだというより、音楽が私を選んだのかもしれない。
―楽器や作曲はどのように学んだのですか?
若い時から、楽器を手に入れるとすぐに夢中になって練習したんだ。ほとんどの楽器の演奏方法は、自分で実験したり、YouTubeを見たり、友達と一緒に演奏したりして学んだ。そして大学に進学した時に、はじめてジャズ・ギタリストになりたいと思ったんだ。その間、たくさんの本を読み、何百ものジャズ・スタンダードを学び、20人以上の先生の元で理論を習ったよ。はじめはジャズ研究科に進学したんだけど、独学で学ぶ方が多いことに気づいて、すぐに専攻を変更したんだ。最終的には、作詞・作曲の方に興味があることに気づいたんだけど、ジャズ・ギターの弾き方を学ぶことは、その点でとても役に立った。
―強い影響を受けたミュージシャンを教えてください。
ブルーノ・メジャー、チャーリー・パーカー、チェット・ベイカー、ウェス・モンゴメリー、フェニックス、そしてザ・ストロークス。音楽を制作する上で、彼らの側面が自然に現れてくるし、それらは私の音楽の一部なんだと思う。
―好きなギタリストは誰ですか?
これは難しい質問だよ。常に変わるからね。今は、ウェス・モンゴメリーを深く掘り下げているところだよ。彼の影響で、可能な限り右手の親指を使うようにしている。そのトーンはまさに無敵だ。それ以外で好きなギタリストは、パット・マルティーノ、バーニー・ケッセル、ジュリアン・レイジ、ジョー・パスかな。
―「I Get Along Without You Very Well 」や「Look for the Silver Lining 」はチェット・ベイカーのレパートリーとして有名です。チェットへの特別な思い入れがあれば教えてください。
私がチェット・ベイカーに惹かれる理由のひとつは、私自身も元々楽器奏者で、後に歌い始めたということだと思うんだ。私がチェットに惹かれるのは、彼の音楽がとてもリアルに感じられるからでもある。歌詞を聴かなくても、彼が感情的に表現しようとしていることを感じ、理解できるから。
―あなたの作品には、アナログとデジタルが絶妙なバランスで成り立っていますね。
それぞれの曲をひとつの作品として扱い、ひとつの手法に決めつけないことで、それぞれの曲の為に、ベストを尽くしているんだ。ブルース・リーの有名な言葉に「水のようになれ」というのがあるんだけど、曲によっては、より現代的なアプローチが必要なものもあれば、伝統的な手法を使った方がいいものもある。あと可能な限りコンピューターではなく、実際の楽器を使うようにしている。そして、私のサウンドは、一緒に仕事をしている素晴らしいミキシング&マスタリング・エンジニアのおかげでもある。多くの曲では、友人であるジョアン・マルティンスとコラボしているんだ。彼は、曲が完璧に仕上がるまで、細かなディテールを微調整しながら、それぞれの曲の可能性を最大限に引き出すように、サポートをしてくれる。彼は、曲に暖かみのあるヴィンテージ・サウンドを与えるエキスパートなんだ。他のエンジニアでは、Nomograph MasteringのRuairi O'FlahertyやBespoke SonicsのHéctor Vegaと一緒に仕事をするのが好きだね。彼らはこの業界で最高のマスタリング・エンジニアで、彼らの音に対する気持ちはいつも正しい場所にある。みんなそれぞれ違ったものを持っていて、いろいろな人とコラボレーションしたり、いろいろな人から学んだりするのは本当に楽しい。定期的に一緒に仕事ができる素晴らしい仲間に出会えて、本当に感謝している。
―ヒップホップやR&Bからどのような影響を受けていますか?
ヒップホップとR&Bのすべてを取り巻く音楽ジャンルの大ファンであることは間違いない。ネオ・ソウル、ローファイ・ヒップホップ、ローファイR&B、オルタナティブR&B、ゴスペルR&Bなど、どれも好きだよ。実は、ヒップホップやR&Bを知ったのは、ここ最近の出来事なんだ。正直なところ、まだまだ掘っている最中だけど、私の今の音楽はこれらなしでは成り立たないのは確かなことだね。
―ヴィンテージの楽器や機材を使っていますか?
もちろん。“もう誰も昔のようには作れない”という言葉があるけど、これは真実味があるね。現代の楽器の多くは大量生産され、素材や職人技の質を低下させているんだ。私たちは、消費主義の世界の中で生きていて、多くの人が、すでに世の中にあるものを求めるよりも、次の新しくエキサイティングなものを求めている。かつての楽器はもっと愛情を込めて、丁寧に作られていたような気がするんだ。年季の入った木の音に勝るものはないよ。お気に入りのヴィンテージ楽器は、ローランドのJC-77、フェンダー・コンテンポラリー・ストラトキャスター、ギブソンES-347なんだ。
―さまざまなアーティストとコラボレーションするのはなぜですか?
人それぞれ個性的な声を持っているのはもちろんだけど、誰もが違った人生を経験していて、それが音楽として表現に反映されていると考えている。いろいろなアーティストとコラボレーションすることで、いつも一人では決して生み出せなかったものが生まれるし、それが私に最もインスピレーションを与えてくれることのひとつなんだ。このCDに参加しているアーティストはみんな、信じられないほど素晴らしい才能をもった人たちばかりで、ぜひ彼らの発表している音楽をチェックしてもらいたいな。
―どのような方法でレコーディングしましたか?
以前はスタジオでレコーディングしていたけど、ここ数年は自宅でレコーディングしているんだ。スタジオに通っていた頃は、誰かに指示を出して、コンピューターをクリックするだけということが多かった。自分がやった細かい作業に、誰も気づいてくれないことに戸惑っていたんだ。だからあるとき、完全にセルフ・プロデュースする方法を学ばなければならないと思った。また、ネットを通じて、気になったミュージシャンにオファーしたり、友人のミュージシャンにお願いして、演奏してもらったりすることも多いかな。すべての楽器を演奏しようとすると、曲の質が落ちてしまうんだよね。それに、他人のアイデアを聞いたりするのもためになるしね。
―独特なエコーや楽器の音色はどのように作られているのですか?
私の悪いところは、お気に入りのプロデューサーが使っているプラグインを衝動的に買ってしまうことなんだ。気に入ったレコーディング・サウンドを聴いたら、似たような音を再現する方法を見つけるまで、しつこくインターネットで検索するからね。答えが見つからなければ、他のプロデューサーの友人に聞いたりもする。お気に入りのプラグインは、RC-20、Omnisphere/Keyscape、Valhalla Vintage Verb、GHZ Lohiかな。
―日本で初めてCD化されることについてどう思いますか?
この機会を興奮しているし、感謝している。日本に行ってライブをするのが夢だったから、これでその目標に近づけるといいな。また、ジャズ・ギタリストを目指していた頃、高中正義やT-SQUAREなど日本のジャズ・フュージョンをよく聴いていたんだ。これらは最高のジャンルのひとつだと思うよ。
Jason LaPierre for Quiet Corner
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