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執筆者の写真Yuki Yamamoto

Scott Orr『Oh Man』日本発売記念スペシャル・インタビュー

カナダのトロント近郊の都市、ハミルトンで活動するシンガー・ソングライター、スコット・オーが2021年に自身のレーベル Other Songsから リリースした名作が待望の国内盤CD化が実現。今回、ライナーノーツを書くにあたり、いくつか質問をスコットに投げかけたところ、非常に興味深い答えがいくつも返ってきました。今回、その全文をここに掲載することにしました。




——ハミルトンはどんな街で、どんなところが好きですか?


Scott Orr(スコット・オー)—ハミルトンはブルーカラー(製造業や建設業、鉱業といった労働者)の街で、僕が生まれたところでもある。私は、厳しい街ほど最高の芸術が生まれると考える傾向がある。ハミルトンもそうだと思う。


——音楽を始めたのはいつですか?


私の家族は音楽一家だった。幼い頃にフィル・コリンズとジェネシスの音楽に出会って、フィル・コリンズの真似をするために3歳でドラムを始めたんだ。小学生になると、曲を書くためにギターも手にした。昔から彼らの音楽が大好きで、ソングライターになったのも、ただ自分が憧れていた彼らのソングライティングを真似ただけなんだ。


——他に影響を受けたミュージシャンはいますか?


ジョシュ・リッター、ジョニー・キャッシュ、ウィルコかな。でも最近は、インストゥルメンタルのジャズばかり聴いているけど。あと、80年代のポップス、ニュージャズ、フォーク、実験的なエレクトロニクスなど、様々な個性的な音楽からのインスピレーションをミックスして、新しいサウンドを生み出すという行為がとても楽しいんだ。


——なぜ、自身のレーベル、“Other Songs Music Co(アザー・ソングス・ミュージック)”を設立したのですか?


2010年、当時レコード契約を得るための明確な道が見つからなかったので、友人たちと自分でレーベルを立ち上げることによって、すべての生産を自分たちで決めることができるし、友人であるアーティストたちと一緒に仕事ができたら楽しいだろうと思ったんだ。


——あたなのレーベルでは、ほぼすべてのフォーマットがリリースされていますね。洋服、靴、詩集まであります。このようなビジネスを行うための哲学は何ですか?


ファンが私の音楽をどのように楽しんでくれるのかを試すのが好きなんだ。人々がどのように音楽を楽しむかを決めつけてはいけないと思う。Spotifyで聴く人もいれば、本棚に飾っているアートワークが映えるスニーカーが欲しい人もいる。レコードだけが欲しい人もいる。そして、その中間にいるファンもいる。また、歌詞が好きで歌詞を手にしたい人もいる。テストプレスが欲しい人もいる。ファンが音楽と自分を結びつける方法は実に様々なんだ。もちろん、現在はストリーミングが大多数ですけど、フィジカルのフォーマットを好むファンもかなりの割合でいるからね。



——『Oh Man』のコンセプトは何ですか?


このアルバムの主な目標は、できるだけ空間を作ることだった。自然の音、私の声、フルートなどを空中に一瞬でも漂わせること。もともとは、最大主義的なレコードを作ろうと思っていたんだけど...時間が経つにつれて、もっとミニマルで広々としたものになるまで、あらゆる要素を削ぎ落としていったんだ。


——収録されている曲はどのような環境下で、いつ作られたのですか?


作曲とレコーディングのスケジュールは、一貫して入念に計画している。通常は、前のアルバムがリリースされてから約1年後に作曲を始めるけど、『OH MAN』の場合は、2019年の夏から曲を書き始めたんだ。「Banners」「Disappear」「Baby Blue」はすべて同時で1週間以内くらいに出来たと思う。「Disappear」とその次に書いた「Know U」のリラックスしたブラジリアン・サウンドが、他の曲のサウンドの基礎になったんだ。これが「Softly」や「Wanna Bud」のような同系統のサウンドに繋がっていった。2019年末までに曲を書き終え、2020年の3月にドラマーとスタジオを予約して、COVID-19がカナダ数日で蔓延する前にスタジオでレコーディングしたんだ。そして、ロックダウンの間、そのトラックに、自分で楽器(ボーカル、ギター、ベース、シンセ、パーカッション)を重ねて録っていた。コーラスは一部リモートでセッションをしたよ。レコーディングは2021年2月までにミックスとマスタリングを終えることができた。



——『Oh Man』をはじめ、あなたの作品はどれもアナログとデジタルが絶妙なバランスで共存するサウンドが特徴的だと思います。


それこそ私が心がけていることなんだ。気づいてくれて嬉しいよ。例えば、自然なリバーブのかかったアコースティック・ピアノと、デジタルのドラムのビートを合わせるのが好きなんだ。あるいは、ムーグのシンセサイザーの上に軽やかなサックスを乗せるのもいいね。これらの組み合わせは本当にエキサイティングで、お互いを引き立て合う。デジタルを使い過ぎると耳を圧倒されるし、アナログ楽器ばかりだとしばらくすると飽きてしまうんだ。



——ヴィンテージ楽器へのこだわりや魅力は何ですか?


特に何かにこだわっているというわけではないんだ。とはいえ、古いシンセやキーボード、あるいはシンプルなドラムマシンの魅力というのは、サウンドの選択肢のパラドックスがなくなることだと思う。コンピューター・シンセのプリセットやセッティングが多すぎると、サウンドを選ぶことが麻痺してしまう。だから、私の使っている古いシンセやベーシックなシンセでは、選択の幅が少ないので、より早くサウンドに満足できるようになる。もともと太く豊かでフルボディのサウンドの楽器が好きだしね。このアルバムで使った楽器は、Fender Rhodes 77、Juno 160、Roland JV30、Moog Sub 37あたるいかな。


——他の作品に比べて管楽器が多くフィーチャーされているようにも感じました。


レコードを出すたびに、新しいサウンドを作りたいという衝動に駆られるんだ。そうすることで、自分にとってエキサイティングな状況が保たれるから。前作と同じように聴こえ始めた曲は、録り直すか、録るのをやめるようにしている。そして、新しいアルバムを出すたびに、リスナーの感性を引き付けるようにしたい。“スコット・オーのカヴァー・バンド”とは思われたくないからね。素晴らしい演奏をしてくれるアン・フンというフルート奏者と、マレー・ヒートンというサックス奏者に出会ったのは大きなきっかけだった。こうして、新しいサウンドが出来るのは楽しかったし、彼らの楽器によって様々な選択肢ができることも発見できた。


——参加ミュージシャンは日本ではまだあまり知られていませんが、とても魅力的な人たちばかりだと思いました。彼らの魅力と、あなたの作品への影響について教えてください。


多くの曲で、アリソン・ゲレニースとアンナ・ホーヴァス(メリヴァル)というバック・シンガーの恩恵を受けている。 アリソンは過去10年間、私のすべてのレコードに参加してくれていて、とても親しい友人なんだ。彼女自身はアーティストではないが、私の音楽を熟知していて、実に繊細なアプローチで曲に深みを与える方法を知っている。メリヴァルは素晴らしいカナダ人アーティストで、「Softly」「Know U」「Wanna Bud」など数曲のシンガーとして起用したんだ。彼女は声を楽器として扱う方法を知っていて、信じられないような独創的なソロ・パフォーマンスを聴かせてくれた。そう、まるでフルートやサックスのように。次のアルバムで彼女と仕事をするのが待ちきれないよ。アン・フンとマレー・ヒートンの管楽器プレイヤーについてはさっき話したけど、素晴らしい人たちだ。



——(鍵盤で参加している)ガレス・インクスターはあなたの作品に欠かせない人物だと思います。彼のプレイヤーとしての特徴を教えてください。


彼はとても信頼できる音楽仲間だよ。彼は多くの楽器のマルチな才能を持っているし、最も重要なことは、私自身と私のサウンドを深く理解してくれているということかな。彼が私のレコードで行った作業の90%は即興演奏だった。彼は私が何を好み、曲が何を必要としているかをよく知っている。


——スタジオでのレコーディングのプロセスを教えてください。


僕のレコーディング・プロセスは、いつも自宅録音で、全曲ですべての楽器を一度に録音するんだ。ドラムやパーカッションから始めて、ベース、さらにパーカッション、アコースティック・ギターとピアノ、シンセ......、ミックスしながら進めていくことが多いかな。重要なのは、レコーディング中にラフ・ミックスを散歩に持ち出したり、ベッドで聴いたりすることなんだ。



——楽器のもつ独特の響きや音色はどのように作っているのですか?


私は音楽のステレオの幅をとても大切にしている。それが最も重要なんだ。また、楽曲をミニマルで空間の多いサウンドにしたいんだ...でも同時に、音楽をみずみずしく、没入感のあるものにしたい。目を閉じればミュージシャンが目の前にいるような感覚になれるような。私はよく、2回録音したモノラル録音をステレオで分離したものを多く使ったりする。そうすることで、より広い空間が生まれるんだ。また、過去数枚のアルバムでは同じリバーブ・エフェクト(SoundToys Effects Rack)を私の声や、時にはフルートやサックスにも使っている。この果てしなくフレッシュなリバーブ・エフェクトが、今では私の音楽の欠かせない要素なんだ。


——あなたのキャリアの中で『Oh Man』はどのような存在ですか?また、過去の作品との共通点や相違点はありますか?


『Oh Man』は、今のところ、私のお気に入りの作品に仕上がった。素晴らしいレコーディング体験だった。もちろん、どんなクリエイティブな仕事でもそうだけど、最新作が一番エキサイティングだね。現在、2024年にリリース予定の新譜を仕上げているところだよ。この新譜は、『Worried Mind』と『Oh Man』を含む3部作の終わりのような感じなんだ。『Oh Man』に書かれた死と死後の世界という歌詞は、私の個人的な考え方で、人生を学び、熟考する私自身の旅を如実に表しているように感じるんだ。そして、アルバム・タイトルの "Oh Man "は、実は、私が日常的に口にしている言葉なんだ。物事が素晴らしいときも、悪いときも、驚くようなことも、この言葉によって、人生における様々な経験の総称になっている。


——インディペンデントな活動の背景にある哲学や考え方について教えてください。


インディペンデントであるということは、アーティストとしての私の生産性を制限するかもしれない他の意思決定者や要因から独立できるということを意味している。自分のスケジュールで自由に作曲やレコーディングができるからね。これは自宅のスタジオを持ち、ほとんどの作業を自分で行うことのメリットでもある。曲やアルバム、実験的なサイド・プロジェクト(『LOW CHORD』のような)のアイデアが浮かんだら、他人の許可を得たりすることなく、すぐに取り組むことができるしね。例えば、『Oh Man』を発表して、1年弱経ってから、次のアルバムの制作に取り掛かったんだ。ちょうど別のセッションの最中だったんだけど、まったく別のアルバムのアイデア浮かんで、2日間ほどでコンセプトを練り上げて、8日間でレコーディングとミックスを済ませたことがあったよ。ちなみに、このアルバムは『Horizon』という作品なんだけど、完全に独立した創造的な実験だったよ。『Oh Man』や現在取り組んでいる次のアルバムとは大きく異なるんだ。しかし、たった10日間で全作品を書き上げ、レコーディングするというのは、自由な実験だった。


——あなたの作品が日本で初めて日本盤CDとしてリリースされたことについて、どのようなお気持ちですか?


とにかく感激しているよ! 日本のファンから信じられないような応援が届いているよ。なぜかはわからない。でも、彼らが『Oh Man』や最近のプロジェクト『Horizon』に与えてくれたすべてのサポートに感謝している。なぜ日本が僕の音楽をこんなに面白いと思ってくれたのか、本当に不思議なんだけど、本当にわくわくしているんだ。今取り組んでいる新しい音楽も気に入ってもらえるといいな。これは『Oh Man』からの自然な続きと受け取ってほしい。







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